痔とは
痔は、肛門部に過度の負担をかけることやストレスなどによって生じる、肛門やその周辺の疾患の総称です。
一般用医薬品の痔疾用薬は、痔に伴う痛み、かゆみ、出血、腫れなどの症状を緩和するために使用されます。
痔疾用薬には、肛門やその周辺に直接使用する外用痔疾用薬と、口から服用する内用痔疾用薬があります。
痔核(いぼ痔)と裂肛(切れ痔)
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 痔核(いぼ痔) | 肛門に存在する細かい血管群が部分的に拡張し、いぼ状の腫れが生じたもの |
| 裂肛(切れ痔) | 硬い便などによって肛門上皮が傷つき、裂けたもの |
痔核には、肛門の内側にできる内痔核と、肛門の外側にできる外痔核があります。
内痔核では、排便時の出血が主な症状となることがあります。
外痔核では、腫れや痛みが強くなることがあります。
痔の薬の種類
外用痔疾用薬には、坐剤、注入軟膏、軟膏などがあります。
内用痔疾用薬には、消炎、止血、末梢血管の血行改善などを目的とする成分が配合されます。
外用薬は局所に使用するため、「全身には影響しない」と考えがちですが、成分の一部が肛門粘膜などから吸収されるため、全身的な影響が生じる可能性があります。
① 局所麻酔成分
痔に伴う痛みやかゆみを和らげる目的で、局所麻酔成分が配合されることがあります。
代表的な成分は次のとおりです。
- リドカイン
- リドカイン塩酸塩
- アミノ安息香酸エチル
- ジブカイン塩酸塩
- プロカイン塩酸塩
局所麻酔成分は、患部の知覚神経を麻痺させることで、痛みやかゆみを感じにくくします。
アミノ安息香酸エチル
アミノ安息香酸エチルは、局所麻酔作用によって痔に伴う痛みやかゆみを和らげる目的で使用されます。
一方、メトヘモグロビン血症を起こすおそれがあるため、6歳未満の小児への使用を避ける必要があります。
② 組織修復成分
痔による肛門部の創傷の治癒を促す目的で、アラントインなどの組織修復成分が配合される場合があります。
また、イソプロピルメチルフェノールが組織修復成分として扱われる製品もあります。
③ 止血成分
痔による出血を抑える目的で、止血成分が配合されます。
代表的な成分には、タンニン酸、カルバゾクロムがあります。
タンニン酸
タンニン酸は、患部のタンパク質と結合して膜を形成し、組織を引き締める収斂作用によって止血効果を示します。
カルバゾクロム
カルバゾクロムは、毛細血管を補強することによって、出血を抑える効果を期待して使用されます。
タンニン酸=膜をつくる、カルバゾクロム=毛細血管を補強と覚えると整理しやすくなります。
④ アドレナリン作動成分
痔に伴う出血や腫れを抑える目的で、アドレナリン作動成分が配合されることがあります。
代表的な成分は次のとおりです。
- テトラヒドロゾリン塩酸塩
- メチルエフェドリン塩酸塩
- エフェドリン塩酸塩
- ナファゾリン塩酸塩
- プソイドエフェドリン塩酸塩
これらは血管を収縮させることによって、痔に伴う出血や腫れを抑える目的で用いられます。
指定濫用防止医薬品に関係する成分
メチルエフェドリン塩酸塩、エフェドリン塩酸塩、プソイドエフェドリン塩酸塩は、濫用のおそれがある成分として注意が必要です。
これらを含む製品では、販売時の確認事項などについて適切に対応する必要があります。
アドレナリン作動成分と基礎疾患
アドレナリン作動成分は血管を収縮させ、循環器系などにも影響するため、高血圧、心臓病、甲状腺機能障害、糖尿病などがある人では使用前に相談する必要があります。
また、排尿困難がある人では、成分によって症状を悪化させるおそれがあります。
⑤ 抗炎症成分
痔に伴う炎症や腫れを抑える目的で、グリチルリチン酸二カリウムなどの抗炎症成分が配合されることがあります。
グリチルリチン酸を含む成分では、過量摂取による偽アルドステロン症に注意します。
特に、むくみ、心臓病、腎臓病、高血圧のある人や高齢者では注意が必要です。
⑥ 殺菌消毒成分
痔疾患に伴う局所の感染を防止する目的で、セチルピリジニウム塩化物などの殺菌消毒成分が配合される場合があります。
これらは細菌などの微生物の増殖を抑える目的で使用されます。
⑦ 血行改善成分
痔によるうっ血を改善する目的などで、血行改善作用を期待する成分が用いられる場合があります。
内用痔疾用薬では、ビタミンE(トコフェロール)などが配合されることがあります。
ビタミンEには末梢血行を促進する作用があり、痔に伴ううっ血の改善に利用されます。
⑧ 生薬成分
痔疾用薬には、生薬成分が配合される場合があります。
代表的なものとして、セイヨウトチノミ、カイカ、カイカク、オウゴンなどがあります。
セイヨウトチノミ
セイヨウトチノミは、トチノキ科のセイヨウトチノキ(マロニエ)の種子を基原とする生薬です。
主に抗炎症作用を期待して、痔疾用薬に配合されます。
カイカ
カイカは、マメ科のエンジュの蕾を基原とする生薬です。
主に止血作用を期待して用いられます。
オウゴン
オウゴンは、シソ科のコガネバナの根を基原とする生薬です。
痔疾用薬では、主に抗炎症作用を期待して用いられます。
⑨ ステロイド性抗炎症成分
痔による炎症や腫れなどを抑える目的で、プレドニゾロン酢酸エステルなどのステロイド性抗炎症成分が配合されることがあります。
ステロイド性抗炎症成分を含む坐剤や注入軟膏などでは、含有量にかかわらず長期連用を避ける必要があります。
局所に使用する薬であっても、ステロイド性抗炎症成分による影響を考慮する必要があります。
外用痔疾用薬の剤形
| 剤形 | 特徴 |
|---|---|
| 坐剤 | 肛門から直腸内に挿入して使用する |
| 注入軟膏 | 容器の先端を肛門内に挿入して薬剤を注入するほか、患部に塗布することもある |
| 軟膏 | 主として肛門周辺の患部に塗布する |
痔の薬は患部に直接使用することが多いため、用法・用量と使用部位を確認して使用することが重要です。
痔の薬を長期間使い続けない
一般用医薬品の痔疾用薬は、痔に伴う症状を一時的に緩和するために使用するものです。
出血や痛みが繰り返す場合、症状が長期間続く場合には、痔以外の疾患が隠れている可能性もあります。
そのため、症状が改善しない場合に漫然と使い続けることは適切ではありません。
出血がある場合の注意
肛門からの出血がある場合、その原因が必ず痔であるとは限りません。
大腸ポリープや大腸癌など、消化管の疾患が原因である可能性もあります。
特に、出血が繰り返す、出血量が多い、便通異常を伴うなどの場合には、痔疾用薬だけで対処せず、医療機関を受診することが重要です。
内用痔疾用薬の重要ポイント
内用痔疾用薬では、抗炎症成分、止血成分、血行改善成分などを組み合わせて使用します。
| 成分 | 主な目的 |
|---|---|
| グリチルリチン酸二カリウム | 抗炎症 |
| カルバゾクロム | 止血 |
| フィトナジオン(ビタミンK1) | 血液凝固機能を正常に保つ |
| ビタミンE | 末梢血行を促進し、うっ血を改善 |
| セイヨウトチノミ | 抗炎症 |
| オウゴン | 抗炎症 |
痔疾用薬の重要ポイント一覧
| 分類・成分 | 重要ポイント |
|---|---|
| 痔核 | 肛門の血管群が部分的に拡張し、いぼ状の腫れが生じる |
| 裂肛 | 肛門上皮が傷つき、裂けたもの |
| 局所麻酔成分 | 痛み・かゆみを和らげる |
| アミノ安息香酸エチル | 局所麻酔。6歳未満に使用を避ける |
| アラントイン | 組織修復 |
| タンニン酸 | 収斂作用による止血 |
| カルバゾクロム | 毛細血管を補強して止血 |
| アドレナリン作動成分 | 血管収縮によって出血・腫れを抑える |
| メチルエフェドリン等 | 濫用のおそれがあるため注意 |
| グリチルリチン酸 | 抗炎症。偽アルドステロン症に注意 |
| セチルピリジニウム塩化物 | 局所の感染防止を目的とする殺菌消毒成分 |
| セイヨウトチノミ | 抗炎症 |
| カイカ | 止血 |
| オウゴン | 抗炎症 |
| プレドニゾロン酢酸エステル | ステロイド性抗炎症成分。長期連用を避ける |
| 出血の長期化 | 痔以外の疾患の可能性を考えて受診 |
ここは絶対に覚えたい!
痔の薬では、まず「局所麻酔=痛み・かゆみ」「組織修復=アラントイン」「止血=タンニン酸・カルバゾクロム」を覚えましょう。
特に止血成分は、
タンニン酸 → 膜をつくって止血
カルバゾクロム → 毛細血管を補強して止血
と区別します。
アドレナリン作動成分は血管を収縮させて出血・腫れを抑えることがポイントです。
生薬では、
セイヨウトチノミ → 抗炎症
カイカ → 止血
オウゴン → 抗炎症
と整理しておきましょう。
また、痔疾用薬は局所使用だから全身への影響がないわけではないことも重要です。
最後に、肛門からの出血が繰り返したり、量が多かったり、便通異常を伴ったりする場合には、痔以外の疾患の可能性を考えて受診につなげます。
予想問題
問1
痔核は、肛門に存在する細かい血管群が部分的に拡張し、肛門内にいぼ状の腫れが生じたものである。
解説
正しい。痔核はいわゆる「いぼ痔」で、肛門に存在する細かい血管群が部分的に拡張し、いぼ状の腫れが生じたものです。
問2
裂肛は、肛門上皮が傷つき、裂けたものであり、一般に「切れ痔」と呼ばれる。
解説
正しい。裂肛はいわゆる「切れ痔」で、硬い便などによって肛門上皮が傷つき、裂けることで生じます。
問3
坐剤や注入軟膏は局所に適用されるため、成分が吸収されて全身的な影響を生じることはない。
解説
誤り。坐剤や注入軟膏などの外用痔疾用薬でも、成分の一部が肛門粘膜などから吸収され、全身的な影響を生じる可能性があります。
問4
リドカインは、局所麻酔作用によって痔に伴う痛みやかゆみを和らげる目的で配合される。
解説
正しい。リドカインは局所麻酔成分で、患部の知覚神経を麻痺させることにより痛みやかゆみを和らげます。
問5
アミノ安息香酸エチルは、6歳未満の小児にも使用できる。
解説
誤り。アミノ安息香酸エチルはメトヘモグロビン血症を起こすおそれがあるため、6歳未満の小児への使用を避けます。
問6
カルバゾクロムは、毛細血管を補強することによって止血効果を示す。
解説
正しい。カルバゾクロムは毛細血管を補強することで、痔に伴う出血を抑える目的で使用されます。
問7
タンニン酸は、患部に膜を形成する収斂作用によって止血効果を示す。
解説
正しい。タンニン酸は患部のタンパク質と結合して膜を形成し、組織を引き締めることで止血効果を示します。
問8
プレドニゾロン酢酸エステルを含む坐剤や注入軟膏は、局所作用なので長期間連用しても問題ない。
解説
誤り。ステロイド性抗炎症成分を含む坐剤や注入軟膏では、含有量にかかわらず長期連用を避ける必要があります。
問9
セイヨウトチノミは、主に殺菌作用を期待して痔疾用薬に配合される。
解説
誤り。セイヨウトチノミは、主に抗炎症作用を期待して用いられます。
問10
肛門からの出血が繰り返したり、出血量が多かったり、便通異常を伴ったりする場合には、痔以外の疾患の可能性も考えて医療機関を受診する。
解説
正しい。肛門からの出血が必ず痔によるものとは限らず、大腸ポリープや大腸癌などが原因となっている場合もあります。痔疾用薬だけで対処し続けず、受診につなげることが重要です。
まとめ
痔の薬では、まず痔核(いぼ痔)と裂肛(切れ痔)の違いを押さえましょう。
成分では、局所麻酔成分=痛み・かゆみ、アラントイン=組織修復、タンニン酸・カルバゾクロム=止血、アドレナリン作動成分=血管収縮、グリチルリチン酸=抗炎症という対応関係を覚えておきます。
生薬では、セイヨウトチノミ=抗炎症、カイカ=止血、オウゴン=抗炎症が重要です。
また、外用痔疾用薬であっても全身的な影響が生じる可能性があるため、「局所だから安全」とは限りません。
特にアミノ安息香酸エチルの6歳未満への使用回避、ステロイド性抗炎症成分の長期連用回避は重要な試験ポイントです。
最後に、肛門からの出血が続く場合には痔以外の疾患の可能性もあるため、症状を薬で隠し続けず、医療機関への受診につなげることが大切です。

