咳止め・去痰に用いる漢方処方製剤
漢方処方製剤には、咳を鎮めたり、痰を出しやすくしたりする目的で用いられるものがあります。
令和8年4月版の手引きでは、甘草湯のほか、半夏厚朴湯、柴朴湯、麦門冬湯、五虎湯、麻杏甘石湯、神秘湯などが挙げられています。これらは同じ「咳」に用いられていても、適する体力や症状が異なります。
また、半夏厚朴湯を除くこれらの処方にはカンゾウが含まれ、五虎湯、麻杏甘石湯、神秘湯にはマオウが含まれます。カンゾウ・マオウを含む医薬品に共通する注意点とあわせて覚えることが重要です。
半夏厚朴湯
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)は、体力中等度をめやすとして、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感がある人に用いられる漢方処方製剤です。
ときに、
- 動悸
- めまい
- 嘔気
などを伴うことがあります。
主な適応として、不安神経症、神経性胃炎、つわり、咳、しゃがれ声、のどのつかえ感などがあります。
半夏厚朴湯のポイント
半夏厚朴湯は、今回扱う処方の中でカンゾウを含まない処方です。
「咳に使う漢方だからカンゾウが必ず入っている」と考えないようにしましょう。
柴朴湯
柴朴湯(さいぼくとう)は、別名小柴胡湯合半夏厚朴湯ともいいます。
体力中等度で、
- 気分がふさいでいる
- 咽喉・食道部に異物感がある
- かぜをひきやすい
などの特徴があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う人に用いられます。
主な適応は、小児喘息、気管支喘息、気管支炎、咳、不安神経症、虚弱体質です。
柴朴湯に不向きな人
むくみの症状がある人などには不向きとされています。
柴朴湯の副作用
まれに重篤な副作用として、
- 間質性肺炎
- 肝機能障害
が起こることが知られています。
また、その他の副作用として、頻尿、排尿痛、血尿、残尿感などの膀胱炎様症状が現れることがあります。
麦門冬湯
麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、体力中等度以下で、痰が切れにくく、ときに強く咳きこみ、又は咽頭の乾燥感がある人に用いられます。
主な適応は、
- かぜ
- 気管支炎
- 気管支喘息
- 咽頭炎
- しわがれ声
です。
麦門冬湯に不向きな人
水様痰の多い人には不向きとされています。
したがって、麦門冬湯は「咳なら誰にでも使える」というものではありません。
麦門冬湯の副作用
まれに重篤な副作用として、
- 間質性肺炎
- 肝機能障害
を生じることが知られています。
五虎湯
五虎湯(ごことう)は、体力中等度以上で、咳が強く出る人に用いられます。
主な適応は、
- 咳
- 気管支喘息
- 気管支炎
- 小児喘息
- 感冒
- 痔の痛み
です。
五虎湯の注意点
五虎湯はマオウを構成生薬として含みます。
そのため、マオウを含有する医薬品に共通する注意事項を確認しておく必要があります。
麻杏甘石湯
麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)は、体力中等度以上で、咳が出て、ときにのどが渇く人に用いられます。
主な適応は、
- 咳
- 小児喘息
- 気管支喘息
- 気管支炎
- 感冒
- 痔の痛み
です。
麻杏甘石湯の注意点
麻杏甘石湯もマオウを構成生薬として含みます。
マオウを含むため、マオウに共通する留意点をあわせて覚えます。
神秘湯
神秘湯(しんぴとう)は、体力中等度で、咳、喘鳴、息苦しさがあり、痰が少ない人に用いられます。
主な適応は、
- 小児喘息
- 気管支喘息
- 気管支炎
です。
神秘湯の注意点
神秘湯もマオウを構成生薬として含みます。
また、五虎湯、麻杏甘石湯と同じく、胃腸の弱い人、発汗傾向の著しい人等には不向きとされています。
3処方に共通する「マオウ」
五虎湯、麻杏甘石湯、神秘湯には、いずれもマオウが含まれています。
マオウを含有する医薬品については、交感神経刺激作用などを考慮する必要があります。
そのため、マオウを含む漢方処方製剤では、ほかのマオウ含有製剤との重複使用にも注意しましょう。
カンゾウを含む処方・含まない処方
| 処方 | カンゾウ | マオウ |
|---|---|---|
| 半夏厚朴湯 | 含まない | 含まない |
| 柴朴湯 | 含む | 含まない |
| 麦門冬湯 | 含む | 含まない |
| 五虎湯 | 含む | 含む |
| 麻杏甘石湯 | 含む | 含む |
| 神秘湯 | 含む | 含む |
手引きでは、半夏厚朴湯を除くこれらの処方はカンゾウを含むとされ、また五虎湯、麻杏甘石湯、神秘湯はマオウを含みます。
咳の症状だけで漢方薬を選ばない
同じ「咳」であっても、漢方処方製剤によって適する人の体力や症状が異なります。
| 処方 | 覚える特徴 |
|---|---|
| 半夏厚朴湯 | 気分がふさぐ・咽喉や食道部の異物感・のどのつかえ感 |
| 柴朴湯 | 気分がふさぐ・咽喉や食道部の異物感・かぜをひきやすい |
| 麦門冬湯 | 痰が切れにくい・強く咳きこむ・咽頭の乾燥感 |
| 五虎湯 | 体力中等度以上・咳が強く出る |
| 麻杏甘石湯 | 体力中等度以上・咳・ときにのどが渇く |
| 神秘湯 | 体力中等度・咳・喘鳴・息苦しさ・痰が少ない |
漢方処方製剤の長期服用にも注意
手引きでは、甘草湯を除くこれらの漢方処方製剤は比較的長期間、1か月位服用されることがあるとされています。
ただし、長期間服用することができるという意味で、自己判断による漫然とした継続使用が推奨されているわけではありません。
症状が改善しない場合や悪化した場合には、処方が適しているかを含めて専門家へ相談することが重要です。
間質性肺炎の初期症状に注意
柴朴湯や麦門冬湯では、まれに間質性肺炎が起こることが知られています。
間質性肺炎では、
- 息切れ
- 息苦しさ
- 空咳
- 発熱
などが現れることがあります。
こうした症状が現れた場合には、「咳の病気だから当然」と考えず、原因と考えられる医薬品の使用を中止して、速やかに医師の診療を受ける必要があります。
重要ポイントまとめ
| 処方 | 体力 | 主な特徴 | 重要な注意 |
|---|---|---|---|
| 半夏厚朴湯 | 中等度をめやす | 気分がふさぐ・咽喉・食道部の異物感・咳等 | 今回の6処方でカンゾウを含まない |
| 柴朴湯 | 中等度 | 気分がふさぐ・かぜをひきやすい・喘息・咳等 | むくみのある人等には不向き。間質性肺炎・肝機能障害等 |
| 麦門冬湯 | 中等度以下 | 痰が切れにくい・強く咳きこむ・咽頭乾燥感 | 水様痰が多い人には不向き。間質性肺炎・肝機能障害 |
| 五虎湯 | 中等度以上 | 強い咳 | マオウ含有 |
| 麻杏甘石湯 | 中等度以上 | 咳・ときにのどが渇く | マオウ含有 |
| 神秘湯 | 中等度 | 咳・喘鳴・息苦しさ・痰が少ない | マオウ含有。胃腸虚弱・発汗傾向著しい人等は不向き |
ここは絶対に覚えたい!
半夏厚朴湯 → 中等度 → 気分がふさぐ・咽喉/食道部の異物感・のどのつかえ感
柴朴湯 → 中等度 → かぜをひきやすい・喘息・気管支炎・咳
柴朴湯 → むくみの症状がある人等は不向き
柴朴湯 → 間質性肺炎・肝機能障害・膀胱炎様症状
麦門冬湯 → 中等度以下 → 痰が切れにくい・強く咳きこむ・咽頭乾燥感
麦門冬湯 → 水様痰が多い人は不向き
麦門冬湯 → 間質性肺炎・肝機能障害
五虎湯 → 中等度以上 → 強い咳
麻杏甘石湯 → 中等度以上 → 咳+ときにのどが渇く
神秘湯 → 中等度 → 咳+喘鳴+息苦しさ+痰が少ない
五虎湯・麻杏甘石湯・神秘湯 → マオウ
半夏厚朴湯以外 → カンゾウ
甘草湯を除くこれらの処方 → 比較的長期間(1か月位)服用されることがある
予想問題
問1
半夏厚朴湯は、体力中等度をめやすとして、気分がふさぎ、咽喉・食道部に異物感がある人の咳やしわがれ声などに適するとされる。
解説
正しい。半夏厚朴湯は、気分がふさいで咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う人の不安神経症、神経性胃炎、つわり、咳、しゃがれ声、のどのつかえ感などに用いられます。
問2
半夏厚朴湯は、今回取り上げた6処方の中で唯一、構成生薬としてカンゾウを含まない。
解説
正しい。手引きでは、半夏厚朴湯を除くこれらの処方がカンゾウを含むとされています。
問3
柴朴湯は、むくみの症状がある人にも特に適するとされている。
解説
誤り。柴朴湯は、むくみの症状がある人等には不向きとされています。
問4
柴朴湯では、まれに間質性肺炎や肝機能障害が起こることがあり、頻尿、排尿痛、血尿、残尿感などの膀胱炎様症状が現れることもある。
解説
正しい。柴朴湯では、まれに間質性肺炎、肝機能障害が起こるほか、頻尿、排尿痛、血尿、残尿感などの膀胱炎様症状が現れることがあります。
問5
麦門冬湯は、水様痰の多い人に特に適する。
解説
誤り。麦門冬湯は、痰が切れにくく、咽頭の乾燥感などがある人に用いられますが、水様痰の多い人には不向きとされています。
問6
五虎湯、麻杏甘石湯、神秘湯はいずれも構成生薬としてマオウを含む。
解説
正しい。この3処方には共通してマオウが含まれます。
問7
麻杏甘石湯は、体力中等度以上で、咳が出て、ときにのどが渇く人に適するとされる。
解説
正しい。麻杏甘石湯は、このような症状に用いられます。
問8
神秘湯は、体力中等度で、咳、喘鳴、息苦しさがあり、痰が少ない人に用いられる。
解説
正しい。神秘湯の特徴的な適用です。小児喘息、気管支喘息、気管支炎に用いられます。
問9
五虎湯、麻杏甘石湯、神秘湯は、胃腸の弱い人や発汗傾向の著しい人にも特に適している。
解説
誤り。これら3処方は、胃腸の弱い人、発汗傾向の著しい人等には不向きとされています。
問10
咳に用いる漢方処方製剤は、いずれも同じような体質・症状の人に使用できるため、体力や痰の状態などを確認する必要はない。
解説
誤り。同じ咳に用いられる処方でも、体力、咽喉の状態、痰の量や性状、喘鳴、息苦しさなど、適する人の状態が異なります。「しばり」を確認して処方を選択することが重要です。
まとめ
咳止め・去痰に用いる漢方処方製剤では、「咳」という共通の症状だけで判断しないことが重要です。
半夏厚朴湯=気分がふさぐ・咽喉/食道部の異物感、柴朴湯=かぜをひきやすい・喘息等、麦門冬湯=痰が切れにくい・咽頭乾燥感、五虎湯=強い咳、麻杏甘石湯=咳+ときにのどが渇く、神秘湯=咳+喘鳴+息苦しさ+痰が少ないと整理しましょう。
構成生薬では、半夏厚朴湯を除く処方はカンゾウを含み、五虎湯・麻杏甘石湯・神秘湯はマオウを含むことが重要です。
また、柴朴湯・麦門冬湯では間質性肺炎や肝機能障害、柴朴湯では膀胱炎様症状が知られています。咳の症状そのものと薬の副作用を混同しないことが大切です。
試験では、「体力」「咳の特徴」「痰の状態」「カンゾウ・マオウの有無」「副作用」をセットで覚えておくと、処方の取り違えを防ぎやすくなります。

