歯や口中に用いる薬とは
歯や口中に用いる薬には、歯の痛みを一時的に抑える歯痛薬、歯肉炎や歯槽膿漏の症状を緩和する歯槽膿漏薬、口内炎や舌炎を緩和する口内炎用薬などがあります。
これらの医薬品は、症状を一時的に和らげることを目的とするものが多く、原因となっている疾患そのものを治療するものではない点が重要です。
そのため、歯痛や歯周病、長引く口内炎などでは、一般用医薬品だけで対処し続けず、必要に応じて歯科・医療機関を受診することが基本となります。
歯痛はなぜ起こるのか
歯痛は、多くの場合、歯の齲蝕(むし歯)と、それに伴う歯髄炎によって起こります。
歯痛薬は、むし歯による歯痛を応急的に鎮めるための一般用医薬品です。
しかし、歯痛薬を使用して痛みが和らいでも、歯の齲蝕そのものが修復されるわけではありません。
したがって、歯痛に対しては、歯科診療を受けて原因疾患の治療を行うことが基本です。
歯痛薬(外用)の主な配合成分
局所麻酔成分
むし歯によって露出した歯髄を通っている知覚神経の伝達を遮断して、痛みを鎮める目的で使用されます。
代表的な成分として、
- アミノ安息香酸エチル
- ジブカイン塩酸塩
- テーカイン
などがあります。
冷感刺激成分
歯の知覚神経に冷感刺激を与えて麻痺させることで、鎮痛・鎮痒効果を期待して用いられます。
代表的なものには、
- メントール
- カンフル
- ハッカ油
- ユーカリ油
などがあります。
殺菌消毒成分
むし歯を生じた部分における細菌の繁殖を抑えることを目的として配合されます。
代表的な成分として、
- フェノール
- 歯科用フェノールカンフル
- オイゲノール
- セチルピリジニウム塩化物
などがあります。
これらは粘膜刺激を生じることがあるため、歯以外の口腔粘膜や唇に付着しないよう注意が必要です。
サンシシ
サンシシはアカネ科のクチナシの果実を基原とする生薬です。
抗炎症作用を期待して用いられます。
歯痛薬では「痛みが消えた=治った」ではない
歯痛は、歯の齲蝕などに対する生体の警告信号です。
歯痛薬によって一時的に痛みが和らいでも、それを繰り返していると、歯髄組織が壊死して、状態が悪化するおそれがあります。
そのため、歯痛薬による対処は最小限にとどめる必要があります。
例えば、旅行中や夜間など、すぐに歯科診療を受けることが難しい場合の一時的な対処として使用することはありますが、基本は歯科を受診することです。([mhlw.go.jp](https://www.mhlw.go.jp/content/001692425.pdf))
歯槽膿漏とは
歯と歯肉の境目にある溝を歯肉溝といいます。
歯肉溝では細菌が繁殖しやすく、歯肉に炎症が起こることがあります。
この歯肉炎が重症化して、炎症が歯周組織全体に広がると、歯周炎(歯槽膿漏)になります。
歯槽膿漏の主な症状
歯槽膿漏では、次のような症状がみられます。
- 歯肉からの出血
- 歯肉からの膿
- 歯肉の腫れ
- 歯肉のむずがゆさ
- 口臭
- 口腔内の粘り
歯肉炎が進行して歯周炎になると、歯周組織への炎症が広がっていきます。
歯槽膿漏薬とは
歯槽膿漏薬は、歯肉炎・歯槽膿漏に伴う諸症状の緩和を目的とする医薬品です。
患部に直接使用する外用薬のほか、内服薬もあります。
内服薬には抗炎症成分、ビタミン成分などが配合され、外用薬と併せて用いると効果的とされています。
歯槽膿漏薬(外用薬)の主な配合成分
殺菌消毒成分
歯肉溝における細菌の繁殖を抑える目的で配合されます。
代表的な成分として、
- セチルピリジニウム塩化物
- クロルヘキシジングルコン酸塩
- イソプロピルメチルフェノール
- チモール
などがあります。
クロルヘキシジングルコン酸塩を口腔内に適用した場合、まれに重篤な副作用としてショック(アナフィラキシー)を生じることがあります。
ヒノキチオール・チョウジ油
ヒノキチオールやチョウジ油は、殺菌消毒作用のほか、抗炎症作用なども期待して配合される場合があります。
抗炎症成分
歯周組織の炎症を和らげる目的で、
- グリチルリチン酸二カリウム
- グリチルレチン酸
などが配合される場合があります。
ステロイド性抗炎症成分が配合されている場合には、口腔内に適用するため、その含有量によらず長期連用を避ける必要があります。
止血成分
炎症を起こした歯周組織からの出血を抑える目的で、カルバゾクロムが配合される場合があります。
組織修復成分
炎症を起こした歯周組織の修復を促す目的で、アラントインが配合される場合があります。
生薬成分
歯槽膿漏薬には、
- カミツレ
- ラタニア
- ミルラ
などの生薬成分が配合されることがあります。
カミツレはキク科のカミツレの頭花を基原とする生薬で、抗炎症、抗菌などの作用を期待して用いられます。
歯槽膿漏薬(内服薬)の主な配合成分
抗炎症成分
グリチルリチン酸二カリウムが、歯周組織の炎症を和らげる目的で用いられます。
止血成分
炎症を起こした歯周組織からの出血を抑える目的で、
- カルバゾクロム
- フィトナジオン(ビタミンK1)
などが配合される場合があります。
フィトナジオンは、血液の凝固機能を正常に保つ働きがあります。
銅クロロフィリンナトリウム
銅クロロフィリンナトリウムは、炎症を起こした歯周組織の修復を促す作用のほか、歯肉炎に伴う口臭を抑える効果を期待して配合される場合があります。
ビタミンC
ビタミンCは、コラーゲン代謝を改善して歯周組織の修復を助けるほか、毛細血管を強化して、炎症による腫れや出血を抑える効果を期待して用いられます。
ビタミンE
ビタミンEは、歯周組織の血行を促す効果を期待して配合される場合があります。
歯や口中に用いる外用薬の使い方
歯痛薬や歯槽膿漏薬などの外用薬は、口腔内に食べ物のかすなどが残っていると、十分な効果が期待できません。
そのため、口腔内を清浄にしてから使用することが重要です。
また、口腔咽喉薬や含嗽薬などを使用する場合には、十分な間隔を置いて使用する必要があります。
歯槽膿漏薬の相互作用
内服で用いる歯槽膿漏薬では、同じ成分又は同種の成分が配合された医薬品との併用に注意が必要です。
例えば、
- かぜ薬
- 鎮咳去痰薬
- 胃腸薬
などとの併用によって、作用が強すぎたり、副作用が現れやすくなったりするおそれがあります。
「口の薬だから、かぜ薬や胃腸薬とは関係ない」と考えず、成分の重複を確認することが大切です。
歯周病は日頃のケアも重要
歯周病は、軽いうちは自己治療が可能とされています。
ただし、日頃から十分な歯磨き等によって歯肉溝での細菌の繁殖を抑えることが重要です。
一方、歯石の沈着などによって歯周病が慢性化しやすい場合もあります。
歯槽膿漏薬によって症状が一時的に抑えられても、しばらくすると症状が繰り返し現れる場合には、医療機関を受診するなどの対応が必要です。
口内炎用薬とは
口内炎用薬は、口内炎、舌炎の緩和を目的として、口腔内局所に適用される外用薬です。
口内炎や舌炎は、口腔粘膜に生じる炎症で、粘膜上皮に水疱や潰瘍ができて痛み、ときに口臭を伴います。
口内炎が起こる要因
口内炎の発生の仕組みは必ずしも解明されていませんが、
- 栄養摂取の偏り
- ストレス
- 睡眠不足
- 唾液分泌の低下
- 口腔内の不衛生
などが要因となって生じることが多いとされています。
また、疱疹ウイルスの口腔内感染による場合や、医薬品の副作用として口内炎を生じる場合もあります。
口内炎用薬の主な配合成分
抗炎症成分
口腔粘膜の炎症を和らげる目的で、
- グリチルリチン酸二カリウム
- グリチルレチン酸
などが用いられます。
また、口腔粘膜の組織修復を促すことを期待して、アズレンスルホン酸ナトリウム(水溶性アズレン)が配合される場合があります。
ステロイド性抗炎症成分
口内炎用薬にステロイド性抗炎症成分が配合されている場合には、口腔内に適用するため、その含有量によらず長期連用を避ける必要があります。
殺菌消毒成分
患部からの細菌感染を防止する目的で、
- セチルピリジニウム塩化物
- クロルヘキシジン塩酸塩
- アクリノール
- ポビドンヨード
などが配合される場合があります。
シコン
シコンはムラサキ科のムラサキの根を基原とする生薬です。
組織修復促進、抗菌などの作用を期待して用いられます。
口内炎用薬の漢方処方製剤
口内炎用薬には、内服で用いる茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)が用いられる場合があります。
体力中等度以上で、口渇があり、尿量が少なく、便秘するものの蕁麻疹、口内炎、湿疹・皮膚炎、皮膚のかゆみに適すとされています。
一方、体の虚弱な人や胃腸が弱く下痢しやすい人では、激しい腹痛を伴う下痢等の副作用が現れやすいなど、不向きとされます。
構成生薬としてダイオウを含み、まれに重篤な副作用として肝機能障害が起こることがあります。
1週間位使用しても症状の改善がみられない場合には、いったん使用を中止して専門家に相談するなどの対応が必要です。
口内炎用薬の相互作用
口内炎用薬を使用する際も、まず口腔内を清浄にすることが重要です。
口腔咽喉薬や含嗽薬などを併用する場合には、十分な間隔を置く必要があります。
内服で用いる漢方処方製剤については、他の漢方処方製剤や生薬製剤との重複にも注意します。
口内炎は放置してよいとは限らない
口内炎や舌炎は、通常であれば1~2週間で自然寛解します。
しかし、一度に複数箇所に発生して、食事に著しい支障を来すほどの状態であれば、医療機関を受診するなどの対応が必要です。
また、長期間にわたって症状が続く場合には、口腔粘膜に生じた腫瘍である可能性もあります。
再発を繰り返す場合には、ベーチェット病などの可能性も考えられるため、医療機関を受診する必要があります。
医薬品の副作用による口内炎にも注意
何らかの疾病のため医療機関で治療を受けている人では、現在使用している処方薬の副作用によって口内炎が生じている可能性も考慮する必要があります。
この場合、口内炎用薬で症状だけを抑えるのではなく、治療を行っている医師又は処方薬の調剤を行った薬剤師に相談することが重要です。
歯や口中に用いる薬の重要ポイント一覧
| 項目 | 覚えるポイント |
|---|---|
| 歯痛 | 多くの場合、むし歯とそれに伴う歯髄炎が原因 |
| 歯痛薬 | 痛みを応急的に鎮める。むし歯そのものは治らない |
| 歯痛薬の局所麻酔 | 知覚神経の伝達を遮断 |
| 歯痛薬の殺菌消毒 | フェノール、歯科用フェノールカンフル、オイゲノール等 |
| 歯槽膿漏 | 歯肉炎が重症化して歯周組織全体に炎症が広がった歯周炎 |
| クロルヘキシジングルコン酸塩 | 口腔内適用でまれにショック(アナフィラキシー) |
| 歯槽膿漏薬 | 歯肉炎・歯槽膿漏の諸症状を緩和 |
| 歯槽膿漏薬の内服 | グリチルリチン酸二カリウム、カルバゾクロム、ビタミンC・E等 |
| 口内炎用薬 | 口内炎・舌炎の緩和に使用する外用薬 |
| 口内炎の要因 | 栄養摂取の偏り、ストレス、睡眠不足、唾液分泌低下、口腔内の不衛生等 |
| 水溶性アズレン | 口腔粘膜の組織修復を促す |
| シコン | 組織修復促進、抗菌 |
| 茵蔯蒿湯 | 口内炎等に用いられる漢方処方製剤。ダイオウを含む |
| 口内炎 | 通常1~2週間で自然寛解 |
| 長期化 | 口腔粘膜の腫瘍などの可能性 |
| 再発反復 | ベーチェット病などの可能性 |
ここは絶対に覚えたい!
歯痛薬 → むし歯を治す薬ではなく、痛みを応急的に鎮める薬
歯痛 → 基本は歯科受診
局所麻酔成分 → 知覚神経の伝達を遮断
歯槽膿漏 → 歯肉炎が重症化して歯周組織に広がった歯周炎
クロルヘキシジングルコン酸塩 → 口腔内適用でまれにアナフィラキシー
口腔内のステロイド性抗炎症成分 → 含有量によらず長期連用を避ける
歯痛薬・歯槽膿漏薬の外用薬 → 口腔内を清浄にしてから使用
口腔咽喉薬・含嗽薬との併用 → 十分な間隔を置く
口内炎・舌炎 → 通常1~2週間で自然寛解
複数箇所+食事に著しい支障 → 受診
長期間続く口内炎 → 腫瘍の可能性
繰り返す口内炎 → ベーチェット病などの可能性
予想問題
問1
歯痛薬を使用して歯の痛みが治まれば、むし歯そのものも修復されたと考えてよい。
解説
誤り。歯痛薬はむし歯による歯痛を応急的に鎮めるものであり、歯の齲蝕そのものが修復されるわけではありません。
問2
歯痛薬に含まれる局所麻酔成分は、露出した歯髄を通る知覚神経の伝達を遮断して痛みを鎮める。
解説
正しい。アミノ安息香酸エチル、ジブカイン塩酸塩、テーカインなどが局所麻酔成分として用いられます。
問3
歯痛薬に含まれる殺菌消毒成分は、口腔粘膜や唇に広く塗布することを目的としている。
解説
誤り。フェノールなどの殺菌消毒成分は粘膜刺激を生じることがあるため、歯以外の口腔粘膜や唇に付着しないよう注意が必要です。
問4
歯肉炎が重症化して炎症が歯周組織全体に広がると、歯周炎(歯槽膿漏)となる。
解説
正しい。歯肉炎が重症化し、炎症が歯周組織全体に広がった状態が歯周炎(歯槽膿漏)です。
問5
クロルヘキシジングルコン酸塩を口腔内に適用した場合、まれにショック(アナフィラキシー)を生じることがある。
解説
正しい。クロルヘキシジングルコン酸塩では、口腔内への適用時にまれにショック(アナフィラキシー)が起こることがあります。
問6
口腔内に適用するステロイド性抗炎症成分は、含有量が少なければ長期連用しても問題ない。
解説
誤り。口腔内に適用する場合には、その含有量によらず長期連用を避ける必要があります。
問7
歯痛薬や歯槽膿漏薬の外用薬は、口腔内に食べ物のかすが残っている状態でも十分な効果が期待できる。
解説
誤り。食べ物のかすなどが残っている状態では十分な効果が期待できないため、口腔内を清浄にしてから使用することが重要です。
問8
口内炎や舌炎は、通常であれば1~2週間で自然寛解する。
解説
正しい。通常は1~2週間で自然寛解します。ただし、長期間続く場合や再発を繰り返す場合などには、他の疾患の可能性も考えて受診する必要があります。
問9
口内炎が一度に複数箇所に発生し、食事に著しい支障を来す状態であっても、口内炎用薬を使用して様子をみればよい。
解説
誤り。一度に複数箇所に発生し、食事に著しい支障を来すほどの状態では、医療機関を受診するなどの対応が必要です。
問10
口内炎が長期間続いたり、再発を繰り返したりする場合には、口腔粘膜の腫瘍やベーチェット病などの可能性も考えられる。
解説
正しい。長期間症状が続く場合には口腔粘膜の腫瘍、再発を繰り返す場合にはベーチェット病などの可能性も考えられるため、医療機関を受診する必要があります。
まとめ
歯や口中に用いる薬では、まず「症状を一時的に緩和する薬」と「原因疾患そのものを治療すること」は別だと覚えましょう。
歯痛薬は、むし歯による痛みを一時的に鎮めるもので、むし歯を治すものではありません。歯痛は基本的に歯科診療を受けることが優先されます。
歯槽膿漏では、歯肉炎→歯周炎(歯槽膿漏)という進行を押さえ、殺菌消毒成分、抗炎症成分、止血成分、組織修復成分、ビタミン成分を整理しておきましょう。
口内炎用薬では、グリチルリチン酸二カリウム、水溶性アズレン、殺菌消毒成分、シコンなどが重要です。
さらに、1~2週間で自然寛解することが多いが、複数箇所・食事に著しい支障、長期化、再発反復では受診という受診勧奨までセットで覚えておくと、試験対策として強くなります。

