薬害とは
医薬品は、疾病の治療や症状の改善などに役立つ一方で、適正に使用していても副作用などによる健康被害が生じることがあります。
特に、医薬品の安全性に関する情報が十分に活用されなかったり、必要な対策が適切に行われなかったりした結果、広範囲に健康被害が生じることがあります。
こうした医薬品による深刻な健康被害について学ぶことは、登録販売者試験でも重要です。
薬害の歴史を学ぶことで、医薬品には有効性だけでなくリスクがあること、安全性を確保するために継続的な情報収集と適切な対応が必要であることを理解できます。
医薬品による副作用等に対する基本的な考え方
医薬品は、人体にとって本来は異物です。
そのため、治療上の効果が期待される一方で、何らかの有害な作用が生じることは避けられません。
副作用には、眠気や口渇など比較的よくみられるものから、死亡や日常生活に支障をきたすほど重大なものまで、さまざまな程度があります。
また、それまでの使用経験から知られている副作用だけでなく、科学的に解明されていない未知の副作用が生じる場合もあります。
そのため、医薬品は十分注意して使用すれば絶対に安全というものではなく、安全性の確保に向けて継続的に努力することが重要です。
薬害を防ぐために重要なこと
薬害を防ぐためには、医薬品の有効性だけでなく、安全性についても継続して確認する必要があります。
特に重要なのが、
・副作用情報を収集すること
・得られた情報を評価すること
・必要に応じて安全対策を行うこと
・医薬品を使用する人に適切な情報を提供すること
・医薬品を適正に使用すること
です。
登録販売者も、販売の現場で得られる相談内容や副作用に関する情報を適切に扱い、医薬品による健康被害の拡大防止に関わる立場にあります。
サリドマイド訴訟
サリドマイド訴訟は、サリドマイド製剤を使用したことによって出生児に先天異常が生じたことをめぐる損害賠償訴訟です。
サリドマイド製剤は、催眠鎮静剤などとして販売されていました。
妊婦または妊娠していると思われる女性が使用した場合、出生児に四肢欠損や耳の障害などの先天異常が生じることがありました。
日本では、1963年6月に製薬企業を被告とする訴訟が提起され、翌年12月には国と製薬企業を被告とする訴訟が提起されました。
1974年10月に和解が成立しました。
この薬害からは、妊娠中の医薬品使用による胎児への影響や、医薬品の安全性に関する情報を適切に把握・伝達することの重要性を学ぶことができます。
サリドマイド薬害から学ぶこと
サリドマイドの薬害では、医薬品の有効性だけでなく、妊婦や胎児への影響を含めた安全性を慎重に確認することの重要性が示されました。
また、海外で安全性に関する情報が得られた場合には、その情報を迅速に活用して必要な対応を行うことも重要です。
登録販売者にとっても、妊娠している可能性がある人に医薬品を販売する際には、使用者の状況を確認することが重要だと理解しておきましょう。
スモン訴訟
スモン訴訟は、整腸剤として販売されていたキノホルム製剤を使用したことにより、亜急性脊髄視神経症、いわゆるスモンに罹患したことをめぐる損害賠償訴訟です。
スモンでは、初期に腹部の膨満感や激しい腹痛を伴う下痢などが生じ、その後、下半身のしびれや脱力、歩行困難などが現れました。
重症の場合には、上半身に麻痺が広がったり、視覚障害から失明に至ったりすることもありました。
1970年にスモンの原因はキノホルムであるとの説が発表され、同年9月にキノホルム製剤の販売が停止されました。
1971年に国と製薬企業を被告として提訴され、1977年10月の和解成立を経て、1979年9月に全面和解が成立しました。
スモン訴訟から学ぶこと
スモン訴訟を契機として、医薬品の副作用による健康被害を迅速に救済するため、1980年に医薬品副作用被害救済制度が創設されました。
薬害の被害を受けた人を救済する仕組みを整えることと、同じような被害を繰り返さないための安全対策を進めることが重要です。
HIV訴訟
HIV訴訟は、血友病患者が、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が混入した原料血漿から製造された血液凝固因子製剤の投与を受けたことにより、HIVに感染したことをめぐる損害賠償訴訟です。
大阪地裁では1989年5月、東京地裁では同年10月に提訴されました。
1996年3月に大阪地裁と東京地裁で和解が成立しました。
この問題では、血液製剤の安全性確保や感染被害を防ぐための対策が重要な課題となりました。
HIV訴訟から学ぶこと
HIV訴訟を踏まえ、生物由来の医薬品等による感染被害を防止するための安全対策が強化されました。
また、生物由来製品による感染等の健康被害を救済する制度の整備にもつながっています。
医薬品の安全性を確保するためには、製品そのものだけでなく、その原材料や製造工程なども含めて適切に管理する必要があります。
CJD訴訟
CJD訴訟は、ヒト乾燥硬膜を移植されたことにより、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)に罹患したことをめぐる損害賠償訴訟です。
CJDは、進行性の神経症状を示す疾患です。
1996年に提訴され、2002年3月に和解が成立しました。
この訴訟を踏まえ、生物由来の医薬品等の安全性確保や、感染等による健康被害の救済制度の整備が進められました。
CJD訴訟から学ぶこと
CJD訴訟からは、生物由来の医薬品等について、安全性を確保するための規制や対策を強化することの重要性を学ぶことができます。
また、健康被害が発生した場合に、被害を受けた人を救済する仕組みを整えることも重要です。
C型肝炎訴訟
C型肝炎訴訟は、出産や手術の際に特定のフィブリノゲン製剤や血液凝固第IX因子製剤の投与を受けたことにより、C型肝炎ウイルスに感染したことをめぐる損害賠償訴訟です。
国と製薬企業を被告として、2002年から2007年にかけて5つの地方裁判所で提訴されました。
2006年から2007年にかけて5つの判決が出されましたが、国や製薬企業が責任を負うべき期間などについて判断が分かれていました。
その後、C型肝炎ウイルス感染者を早期かつ一律に救済するため、2008年1月に特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための特別措置法が制定・施行されました。
C型肝炎訴訟から学ぶこと
C型肝炎訴訟では、医薬品等による健康被害について、被害を受けた人を早期に救済するための仕組みを整えることの重要性が示されました。
また、薬害の再発を防止するため、医薬品行政を継続的に見直し、安全性を監視する仕組みを整えることも重要です。
薬害の歴史から学ぶ登録販売者の役割
サリドマイドやキノホルムによる薬害は、過去に一般用医薬品として販売されていた製品によっても発生しています。
そのため、登録販売者は、単に現在販売されている医薬品の特徴を覚えるだけではなく、医薬品によって過去にどのような健康被害が発生したのかを理解しておく必要があります。
登録販売者は、医薬品について正確な情報を提供し、購入者が適正に使用できるよう支援する立場にあります。
また、副作用などに関する情報を適切に扱い、必要に応じて医療機関への受診を勧めることも重要です。
試験で覚えておきたいポイント
第1章⑧では、次のポイントを押さえておきましょう。
① 薬害は医薬品による深刻な健康被害
医薬品は適正に使用していても、重大な健康被害が生じることがあります。
② サリドマイド訴訟
サリドマイド製剤の使用による出生児の先天異常をめぐる訴訟で、1974年10月に和解が成立しました。
③ スモン訴訟
キノホルム製剤によるスモンの発生をめぐる訴訟で、1979年9月に全面和解が成立しました。
④ HIV訴訟
HIVが混入した血液凝固因子製剤による感染被害をめぐる訴訟で、1996年3月に和解が成立しました。
⑤ CJD訴訟
ヒト乾燥硬膜の移植によるCJD感染をめぐる訴訟で、2002年3月に和解が成立しました。
⑥ C型肝炎訴訟
特定のフィブリノゲン製剤や血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害をめぐる訴訟です。
⑦ スモン訴訟等を契機に救済制度が整備された
サリドマイド訴訟、スモン訴訟を契機として、医薬品副作用被害救済制度が創設されました。
⑧ 登録販売者も薬害の再発防止に関わる
正確な情報提供や副作用に関する対応を通じて、健康被害の拡大防止に努めることが重要です。
試験で間違えやすいポイント
「医薬品を適正に使用すれば、重大な健康被害は絶対に起こらない」
→誤り
医薬品は十分注意して適正に使用しても、副作用などによる健康被害が生じる場合があります。
「サリドマイド訴訟は、キノホルム製剤による健康被害をめぐる訴訟である」
→誤り
サリドマイド製剤による出生児の先天異常をめぐる訴訟です。
「スモンの原因となったのはキノホルム製剤である」
→正しい
キノホルム製剤による健康被害がスモン訴訟につながりました。
「HIV訴訟は、血液凝固因子製剤によるHIV感染をめぐる訴訟である」
→正しい
HIVが混入した原料血漿から製造された血液凝固因子製剤による感染被害をめぐる訴訟です。
「CJD訴訟は、特定のフィブリノゲン製剤によるC型肝炎感染をめぐる訴訟である」
→誤り
CJD訴訟は、ヒト乾燥硬膜の移植によるCJD感染をめぐる訴訟です。
「C型肝炎訴訟では、特定のフィブリノゲン製剤や血液凝固第IX因子製剤が関係している」
→正しい
出産や手術の際にこれらの製剤を投与されたことによるC型肝炎感染被害が問題となりました。
予想問題
問1
一般用医薬品の販売等に従事する専門家が薬害の歴史を学ぶ意義として、正しいものはどれか。
① 過去の薬害は現在の医薬品販売とは関係がない
② 医薬品の有効性だけを理解するため
③ 医薬品による健康被害の拡大防止に役立てるため
④ 医薬品の販売数量を増やすため
答え:③
解説
薬害の歴史を理解し、医薬品の正確な情報提供や副作用への適切な対応につなげることは、健康被害の拡大防止や薬害の再発防止につながります。
問2
サリドマイド訴訟について、正しいものはどれか。
① キノホルム製剤によるスモンをめぐる訴訟である
② サリドマイド製剤の使用による出生児の先天異常をめぐる訴訟である
③ HIVが混入した血液製剤による感染をめぐる訴訟である
④ C型肝炎ウイルスへの感染をめぐる訴訟である
答え:②
解説
サリドマイド訴訟は、サリドマイド製剤を使用したことによって出生児に四肢欠損や耳の障害などの先天異常が生じたことをめぐる損害賠償訴訟です。
問3
スモン訴訟について、正しいものはどれか。
① 原因となった医薬品はキノホルム製剤である
② 原因となった医薬品はサリドマイド製剤である
③ HIVが混入した血液凝固因子製剤による感染をめぐる訴訟である
④ 特定フィブリノゲン製剤によるC型肝炎感染をめぐる訴訟である
答え:①
解説
スモン訴訟は、整腸剤として販売されていたキノホルム製剤を使用したことによるスモンの発生をめぐる損害賠償訴訟です。
問4
HIV訴訟について、正しいものはどれか。
① サリドマイド製剤による健康被害をめぐる訴訟である
② キノホルム製剤による健康被害をめぐる訴訟である
③ HIVが混入した原料血漿から製造された血液凝固因子製剤による感染をめぐる訴訟である
④ 特定フィブリノゲン製剤によるC型肝炎感染をめぐる訴訟である
答え:③
解説
HIV訴訟は、血友病患者がHIVの混入した原料血漿から製造された血液凝固因子製剤の投与を受け、HIVに感染したことをめぐる損害賠償訴訟です。
問5
C型肝炎訴訟について、正しいものはどれか。
① 特定のフィブリノゲン製剤や血液凝固第IX因子製剤が関係している
② キノホルム製剤が原因となったスモンをめぐる訴訟である
③ HIVが混入した血液凝固因子製剤をめぐる訴訟である
④ サリドマイド製剤による出生児の先天異常をめぐる訴訟である
答え:①
解説
C型肝炎訴訟は、出産や手術の際に特定のフィブリノゲン製剤や血液凝固第IX因子製剤の投与を受けたことによるC型肝炎ウイルス感染をめぐる損害賠償訴訟です。
まとめ
登録販売者試験第1章⑧では、医薬品には有効性だけでなく健康被害につながるリスクがあり、薬害の歴史から安全性確保の重要性を学ぶことが重要です。
特に重要なのは、
① 医薬品は適正に使用しても健康被害が生じることがある
② サリドマイド訴訟は出生児の先天異常をめぐる訴訟
③ スモン訴訟はキノホルム製剤による健康被害をめぐる訴訟
④ HIV訴訟は血液凝固因子製剤によるHIV感染をめぐる訴訟
⑤ CJD訴訟はヒト乾燥硬膜の移植によるCJD感染をめぐる訴訟
⑥ C型肝炎訴訟は特定の血液製剤によるC型肝炎感染をめぐる訴訟
⑦ 薬害の歴史から安全性確保と被害救済の重要性を学ぶ
⑧ 登録販売者も正確な情報提供や副作用への対応を通じて薬害の再発防止に関わる
というポイントです。
薬害の歴史は、単に過去の事件を暗記するだけではありません。
「医薬品は有用である一方、健康被害を生じる可能性がある」
という医薬品の本質を理解し、安全性に関する情報を正しく扱うことの重要性を学ぶための分野です。
第1章①〜⑧では、医薬品の本質から副作用、使用する人への配慮、プラセボ効果、品質、受診勧奨、販売時のコミュニケーション、薬害の歴史まで学習してきました。
次は、第1章①〜⑧の重要事項をまとめて確認する「第1章総まとめ・一問一答」で、知識が定着しているか確認しましょう。

